摩耗

4,180 (税込)

今日まで摩擦摩耗の成書は少なくないが、本書のように機械関係で摩耗を正面から取り組んだものは少なく、摩耗という現象を移着成長説により、すべてを説明し尽くしたまさに日本では画期的な書である。本書に収録したデータの大半は永年にわたり研究室で著者が得たもので、議論の展開に確信を持って答えるには自らの実験が頼りになるからである。 摩耗に関連する研究者・技術者はもちろん、トライボロジーの関係者、専攻の学生諸君の教科書・参考書としてお薦めいたします。

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著者:
判型 B5判
第1版
ページ数 166
発行日 2008/02/29
ISBN-13 978-4-8425-0433-9 C3053
ISBN-10 4-8425-0433-1
JAN 1923053038006
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目次

第1章 はじめに―固体表面と接触
1.1 摩耗とはいかなる現象か
1.2 摩耗粒子の例
1.3 摩耗の表現
1.4 いわゆる無潤滑とは雰囲気気体で潤滑された状態のこと
1.5 固体と気体の界面
1.6 固体の接触
第2章 摩耗粒子の形成
2.1 以前考えられていた摩耗モデル
2.2 摩耗モデルを作る上に重要な3現象
2.3 移着成長過程
2.4 移着成長モデルの実証
2.5 移着粒子成長の規模
2.6 摩擦試片の上下動に関連する幾つかの問題
2.7 伸し潰しによるりん片状粒子の形成
2.8 巻上げによるころ状粒子の形成
2.9 不規則転がりによる球状粒子の形成
2.10 粒度分布
第3章 摩耗式と摩耗遷移
3.1 Holmの摩耗式
3.2 摩耗式の誘導
3.3 実測の摩耗係数
3.4 移着成長モデルにおける摩耗係数
3.5 摩耗式の意味するもの
3.6 真空中の摩耗
3.7 雰囲気とともに摩耗はどう変わるか
3.8 摩擦速度と雰囲気
3.9 シビア摩耗とマイルド摩耗
3.10 マイルド摩耗粒子の微細構造
3.11 両摩耗形態それぞれの成立条件についてのまとめ
3.12 シビア・マイルド摩耗遷移機構
第4章 固体の耐摩耗性
4.1 元素単体における耐摩耗性―遷移金属
4.2 希土類金属―f-軌道電子
4.3 半導体とセラミックス
4.4 アモルファス
4.5 焼入れ
4.6 金属間化合物
4.7 アルミニウムおよび銅
4.8 相互溶解度
4.9 酸化物の相互溶解度
4.10 同種金属と異種金属
4.11 積層材と複合材
第5章 摩耗特性
5.1 摩耗進行曲線と速度特性
5.2 接触圧力特性
5.3 第2次シビア・マイルド摩耗
5.4 摩擦条件と酸化物ならびに比摩耗率
5.5 摩耗形態の認識と判断
5.6 摩耗に対する接触面積、雰囲気、温度、湿度、磁場の影響
第6章 摩耗に関連する諸現象
6.1 焼け付き
6.2 なじみの破綻
6.3 フレッチング
6.4 衝撃摩耗
6.5 トリボメタラジー
第7章 潤滑油と摩耗
7.1 摩耗低減に必要な最少油量
7.2 極圧剤の最少添加量
第8章 摩耗理論の変遷
8.1 摩耗研究小史―第二次世界大戦まで
8.2 20世紀後半以降の摩耗研究118
8.3 「削る」という概念
8.4 「くっついて千切れる」という概念
8.5 「疲れる」という概念
第9章 凝着摩耗成立の確認
9.1 両処女面摩擦における移着と摩耗
9.2 2面のいずれの側の摩耗が多いか
9.3 両処女面アブレシブ摩耗
第10章 アブレシブ摩耗
10.1 削るという作用と表面損耗
10.2 硬さおよび潤滑の影響
10.3 繰返し摩擦といわゆる目詰まり
10.4 二元アブレシブ摩耗における砥粒寸法効果
第11章 三元摩耗
11.1 三元アブレシブ摩耗
11.2 遊離砥粒介在下の摩耗面・摩耗粒子
11.3 潤滑剤の効果
11.4 三元摩耗における砥粒寸法効果
11.5 遷移砥粒径
11.6 摩耗における介在異物微粒子の作用

索引

説明

二固体が互いに摩擦し合うとき、摩耗粉あるいは摩耗粒子と呼ばれる粉末の脱落をともない、すり減ってゆく現象は、工業機器や生産活動の場のみならず、日常生活の上でも広くみられるものである。この現象自体はおそらく有史以前から人に知られていたに違いない。永い文明の歴史の中で、人々はこの摩耗と呼ばれる表面損傷に困惑し、その対策に苦慮してきた。その基本機構がいまだに確実には解っていない、というと、あるいは不思議に思われるかもしれないが、とにかく今にちまで頼りにすべき原理を持たずに、摩耗に対処してきたのである。しかし現代の産業製品にとって、その耐久性は死命を左右する大きな問題である。複雑化した文明社会において、摩耗は単にその製品の耐久性を支配するだけでなく、それを取り巻く諸問題の鍵となるからである。

現在の学術分類では、摩耗は機械工学の中に分類されるのが普通である。それは摩耗が問題とされる対象がおもに機械であるためである。しかし、摩耗に関係する条件因子は必ずしも従来の機械的なものばかりではない。化学とか金属とか物性とかに入れられている問題が大きく摩耗を支配する。つまり、摩耗は、ある工学分野の学術体系の一部として取り扱うのは適当ではない。まず摩耗と呼ばれる自然現象の観察から始めなければならない。 このようなわけで、本書はなるべく単純な条件において生じる摩耗現象の記述から入り、二固体が接触してから摩耗粒子が脱落するまでを、一貫した筋で説明することを心がけた。従来の摩耗の説明ではある段階の過程を述べるにとどまり、最初から最後までを理解するのに戸惑うことが多いからである。用いた摩擦材料も多くの場合、元素単体で、無潤滑を主とした。潤滑油を用いる場合もその多くは直鎖炭化水素などの化学的に素性の知れたものにした。摩耗試験の多くはピン・オン・ディスク型で、異なる素材組合せでもその結果を相互に比較できるよう心掛けた。その意味では、本書に取り上げたところは、いわゆる実用試験から遠いように見られるかも知れない。しかし、とかく複雑だといわれる摩耗現象の基本的理解のためには、このような姿勢が不可欠だ、と思うのである。

筆者が故・曽田範宗先生の下で摩耗の研究に取り組んでから、半世紀の歳月が流れた。そのうちに君と一緒に摩耗の本を書こう、といわれたが、それもままならなかった。漸く首尾を通して摩耗を語れる、と思えるようになったのは、先生の亡くなって8年後の2003年のことである。そんな径路を経て、機械の研究誌に2005~2006年にわたり、「摩耗」と題する連載講座を執筆することが出来た。それを整理、縮小してまとめたのが本書である。世に摩擦摩耗あるいはトライボロジーに関する成書は少なくないが、その中で摩耗を正面からとりあげたものは殆どない。その意味で、ここに漸く先生への報告書が出来た、と自ら慰めている。

本書に収録したデータの大半は永年にわたる筆者の研究室で得たものである。それは議論の展開に際し、確信をもって言うには、やはり自らの実験が頼りになるからである。そのため引用文献に自著のものが多くなったのは止むを得ない。(序文より抜粋)

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